ドーン!
大きな音が響き渡った。
ドーン!ドーン!と続く。
花火だった。
花火の音は、遠くにも聞こえ、近くにも聞こえる。
花火までの距離が掴めない。
果たしてこの世のものだろうか。
ひゅるひゅると、駆け昇る花火玉。
長く長く、尾を伸ばす。
花火玉、弾けるも音は無し。
短命にして花開く瞬間に、音の知らせが聞こえてくる。
ドーン!ドーン!
この世に見る初めての花火。
花火を前に言葉を失う。
言葉にできない衝撃は、永遠の課題。
次の世代へと今ある花火。
ドーン!ドーン!
花火師が命を懸けた技術と仕立て。
記憶の結びつきは奇妙なもの。
幼い頃の夏祭りへと誘う。
小さな街だが、歴史のある街だった。
県境に流れる大きな川。
街を挙げての花火大会。
盆踊りに屋台の賑わい。
川まつりに相応しい万灯流し。
行事の意味も知らぬまま、
灯籠を流すのが面白かった。
遠い記憶に神秘の灯り。
ゆらゆらと、川面を流れる灯籠は、
長い列を成して、大河を照らす。
付かず離れず、抜きつ抜かれつの浮き灯り。
夜空に咲く花火の下で、
今でもあの万灯流しは続いているのだろうか....。
花火の記憶が時を均す。
過去も現在もわたしの中に在る。
きっと未来もわたしの中に在るのだろう。
わたしの中では時計が止まっている。
過去も現在も未来も、今ひとつに在る。
光と音の祭典。
大輪、虚空に舞う。
大輪、虚空に散る。
太陽もまた、花火かもしれない。
真夜中の公園は相変わらずベンチが点滅している。いくつかの灯りが消え、いくつかの灯りが点く。ベンチに座る人、ベンチを立ち去る人。そんな光景が遠く彼方にまで繰り広げられています。わたしのベンチもまた、彼方からは点滅するベンチのひとつとして映るのでしょう。