毛織物工場としての役目を終えた工場空間を再活用している施設が一宮市内にある。私はその八連の「のこぎり屋根工場」の一角に、二坪の事務所スペースを間借りしている。常駐しているわけではないが、そこは私にとって日常を過ごす場所でもある。木造ののこぎり屋根工場には間仕切りが無い。オープンスペースにあるブース状態に近い。事務所自体が一種の展示場となっている。
事務所は、工場全体を見渡せる広い視界の中に位置する。八連と続く北向きの屋根窓から太陽の光が降りてくる。工場内は均一の柔らかい光で満たされる。それは室内と言うより、半屋外の不思議な快適空間だ。
九十年に及ぶ木造建築には現代的な空調機能がない。そもそもが工場なのだ。夏は工業用扇風機、冬は工業用石油ストーブ。そして工場の至るところに消火器が設置してある。
私にはこの消火器が意外と大きなメッセージとして存在する。工場内には水道設備もない。そこで、バケツ一杯の貯水をすることにした。万一の初期消火のために。あるいは日常的手洗いや、水拭き用として使ってもいい。汚れたら水を変えるだけ。そんな多目的用途の「水」を事務所の近くに常備した。日常的に意識して活用するものこそが緊急時にも身近な存在として手に馴染む。この感覚って大事だな、と気付かされる。バケツ一杯の僅かな水だが、その存在は大きい。
工場は半屋外。そのイメージが私の中でアウトドアの生活イメージに繋がった。
緊急時の生活はほとんどアウトドアな環境に近いのではないか。私はダッチオーブンを一台備えることにした。燃料には炭とカセットコンロを用意した。食料は乾麺とサバの缶詰。これらは日常で消費してもいいし、日常で消費することが訓練にも繋がる。緊急時の訓練となるスタイルを日常の中に持ち込むことが一番の防災ではないかと思う。