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[494] 複眼に聞く
     aoki@dwks 2019/06/08(土) 23:32:42

[500] とびら
     aoki@dwks 2019/06/18(火) 01:30:30
[503] まどろみ
     aoki@dwks 2019/07/04(木) 08:44:06
[506] 錯覚
     aoki@dwks 2019/07/12(金) 12:29:15
[507] 世間の枠
     aoki@dwks 2019/07/22(月) 11:44:10
[508] 浮雲
     aoki@dwks 2019/07/24(水) 14:42:51
[509] 輪転写
     aoki@dwks 2019/08/06(火) 08:10:38
[516] 大輪
     aoki@dwks 2019/09/14(土) 12:35:32
[517] 気袋
     aoki@dwks 2019/10/02(水) 21:50:49

by  aoki@dwks    2019/06/18(火) 01:30:30

わたしはベンチに身体を横たえた。 そっと目を閉じる。 真夜中の公園は、静かです。 風の音が耳をかすめていく。 わたしは眠りを迎え入れた。 意識は眠りと公園を往復する。 その振幅によって扉が開く。 此処は何処だ? どこでもないどこか。 おまえは誰だ? だれでもないだれか。 闇の中に浮かぶ光と影。 次第に輪郭が顕となる。 それはあたかも赤外線写真の像。 可視光線にない線が浮かび上がる。 見えていたものが姿を消す。 見えなかったものが輪郭する。 いくつものレイヤーが重なっている。 レイヤーの構造は不可解だ。 映像の意味付けが追いつかない。 拾い集める言の葉は、 彼方のものか、 此方のものか。 当てはめる言葉がない。 その言葉はきっとまだ、 此方では生まれていないのだろう。 生まれる前の言葉は、 闇が飲み込んでいく。 わたしはじっと、脳裏に眼を凝らした。 静かの中で、全身に脈打つ鼓動を聞く。 血潮のざわめきか。 指先、足先までじりじりと熱い。 意識だけが脳裡の映像へとズームされる。 脳裡の映像は、記憶の範疇を超えている。 わたし以外の誰かの記憶? わたしが身を置いたことのない光景。 これはリアルなのか。 わたしは、自分が眠りの中に居ることを自覚している。 わたしはわたしの意思で、この眠りを破ることもできる。 あるいは、奇妙な眠りの展開を、 そのまま受け入れることができることも知っている。 むしろ、わたしにはこれが愉しい。 この楽しみを奪われたくない。 寸断させたくない。 どこまでも続く、その果てを見てみたい。 わたしは念じてみる。 右へ動け、と。 左へ動け、と。 脳裡の映像は、念じたままに動く。 この映像は、わたしが作り出しているものなのか? わたし自身の意識下にある映像なのか? わたしがわたしの意識を見ている? わたしがわたしの意識に見られている? と思いきや、意識が翔んだ。

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by  aoki@dwks    2019/07/04(木) 08:44:06

身体の細胞が少しづつ意識と結びついていく。 瞳は瞼の中で目覚めをぼんやりと自覚する。 肩から腕へ指先へとジンジンと熱い。 どれだけ眠っただろうか? まだ、半分は眠っている。 しばらくは、眠気に身を任せておこう。 すっかり目覚めるまで。 わたしは眠っていた。 今、目覚めようとしている。 このまどろみの中で。 眠り人が展開するおぼろげな残像。 脈絡のないスライドショー。 雑踏の中で絡み合うノイズ。 その奇妙な展開が不思議と心地よい。 現実ではない、夢の中での出来事。 という安心感。 この展開の先に、きっとまだ何かがある。 という期待感。 わたしは「眠り」の中のわたしを知らない。 その「眠り」はわたしの中にある。 わたしは眠りの中へ落ちていった。 わたしの中の眠りに落ちるわたし。 わたしの中の眠りに落ちたわたし。 わたしが知り得ないわたしをわたしが内包している。 不思議な構造だ。 わたしはわたしをわたしの中に探している。 でも、やっぱり探しきれない。 いつものことだ。 期待は叶わず、目覚めを迎える。 一瞬のこと。 ぼんやりのすべてがかき消される。 いつでもそうだ。 奇妙な展開が織りなす幻影は、 持ち帰ろうとするも、 決して記憶には残らない。 いつでもそうだ。 幻影は実在する。 わたしはそう思っている。 ただ、五感では感知できない。 脳は眠らない。 わたしは一人きりの時間が欲しい。 それを満たしてくれるのは「眠り」だけ。 わたしがわたしと対峙する時間。 わたしはそんなわたしを生きている。 眠りは繰り返される。 わたしの手の届かないところで。 五感の記憶を重ねながら。 わたしは、真夜中の公園のベンチに横たわっている。 真夜中の公園は相変わらずベンチが点滅している。いくつかの灯りが消え、いくつかの灯りが点く。ベンチに座る人、ベンチを立ち去る人。そんな光景が遠く彼方にまで繰り広げられています。わたしのベンチもまた、彼方からは点滅するベンチのひとつとして映るのでしょう。

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by  aoki@dwks    2019/07/12(金) 12:29:15

わたしにはわたしを確かめる術が無い。 これは不文律か。 わたしがわたしだと思っているわたしは、 全きわたしではない。 わたしがわたしを知れずして、 わたしはわたしを伝えることができるだろうか? わたしの中に錯覚が生まれている....? 決して掴まえることができない錯覚。 錯覚は、わたしが及ばないところで、 わたしに影響を及ぼしている。 好き、とか嫌い....とか。 わたしの感情。 感情がわたしを突き動かす。 おまえは誰だ? わたしに問いたい。 錯覚はいつも断片的。 浮かんでは消え、 消えては浮かぶ。 神出鬼行。 錯覚の断片は振動する。 時のカケラが共振する。 錯覚は増幅される。 わたしは錯覚の波に飲み込まれる。 だから、好きなの。 だから、嫌いなの。 わたしの好き嫌いに因果は見えない。 錯覚に飲み込まれたわたしの感情。 それがわたしとして存在する。 わたしはわたしの感情を引き受ける。 感情の粒子。 掌に乗せて眺めてみたい。 見えるのか? 平面に奥行きのある空間を描く。 一本の線を配置する。 空間が歪む。 見る側の錯覚と混乱。 立体に光を当てる。 平面に投影される影。 別の立体が出現する。 空間の組み合わせ。 どこまでが現実で、 どこからが錯覚なのか。 果たして境界があるのか。 二次元から見た三次元。 三次元から見た四次元五次元。 見えるのか? 影から想像してみる。 断層から想像してみる。 錯覚のイマジネーション! 具現化はどこまでも三次元。 囚われの身。 制約の身。 わたしの影。 断片なるわたし。 真夜中の公園は相変わらずベンチが点滅している。いくつかの灯りが消え、いくつかの灯りが点く。ベンチに座る人、ベンチを立ち去る人。そんな光景が遠く彼方にまで繰り広げられています。わたしのベンチもまた、彼方からは点滅するベンチのひとつとして映るのでしょう。

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by  aoki@dwks    2019/07/22(月) 11:44:10

一瞬、強い香りが鼻を突いた。 それは、人工的な香り。 きっと、人が肌に付けるものだろう。 しかし、度が過ぎては嫌味だな。 息苦しい。 わたしはベンチに横たえた身体を起こした。 ほどなく強い香りは風に流されていった。人が通り過ぎて行ったのだろうか....。 両足を地面に下ろすと、コツンと何かにあたった。 屈んで覗いて見ると、木製の枠だった。 右手に拾い上げてみる。 A4サイズのコピー用紙ほどの大きさだろうか。 細身の角材をビス止めした簡単な造り。 市販のものではない。 自作枠。まだ新しい。 一辺に何か書いてある。肉筆だ。 「世間の枠」。 はて....? 足下に転がっていた世間の枠。 いつから有ったのだろう? それが今、わたしの手に有る。 枠の中に自分の顔を埋めてみたり....。 腕を伸ばして遠くの景色を枠の中にはめ込んでみたり....。 世間の枠の視角を眺めてみる。 枠までの距離や傾きによって 枠の中の納まりが異なってくる。 当たり前か。 枠の中が変様すれば、 枠の外も変様する。 当たり前か。 枠の中と外は繋がっているのだから。 それを敢えて枠で仕切るのが 「世間の枠」ということか。 公園を立ち去った「あの御人」も世間。 枠を替えれば「わたし」も世間。 わたしの含まれない世間と わたしが含まれる世間。 枠の向こう側と、 枠のこちら側。 一本の線。 その区切りですべてが様変わりする。 枠、という境界。 世間との折り合いの線。 一本の枠を加える時。 世間の枠は自分の中に生まれる。 真夜中の公園は相変わらずベンチが点滅している。いくつかの灯りが消え、いくつかの灯りが点く。ベンチに座る人、ベンチを立ち去る人。そんな光景が遠く彼方にまで繰り広げられています。わたしのベンチもまた、彼方からは点滅するベンチのひとつとして映るのでしょう。

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by  aoki@dwks    2019/07/24(水) 14:42:51

その枠、私のなんです。さっき、落としちゃったみたいで....ごめんなさい。 ーーこの香り。あの強い香りだ。 あ、はい。ここに落ちていましたよ。 ありがとうございます。見つかって良かったです。 大切なものなんですね。 いえ、あの....。ブサイクな枠なんですけど、自分で作ったんです。また作ればいいだけのことなんですが、この大きさが気に入っているんです。 ふむ。 縦横比が4対3なんです。 ふむ。 ほぼA4サイズなんですが、比率は4対3にしてあります。デジカメの画面サイズなんです。 なるほど。 ーー元気な人だなぁ。 あ、私、写真、撮ってるんです。この木枠で風景を切り取って、木枠ごと撮るんです。そしたら、4対3の中に4対3ができるでしょ。 ふむ。 それがおもしろいんです。 世間の枠、と言う木枠ですか? 私が考えたネーミングです。これがおもしろいんです。デジカメの4対3は私の枠で、その中の木枠の4対3が世間の枠、なんです。私と風景の間に世間の枠が入り込む。ね、おもしろいでしょ。 ほぉ....。 ときどき、思うんです。写真を撮っていて、私は自分の枠を撮っているのか?世間の枠を撮っているのか?って。私の枠はいつも4対3なのに、世間の枠は置き方次第で4対3じゃなくなるんですよ。 ふむ。 左手で世間の枠を構えて、右手にデジカメを持って撮るんです。こんな感じ。ね。 器用ですね。 熟れました。木枠の置き方で写真が変わるんです。それがおもしろいんです。 ーーやっぱりこの香りだ。 バシャバシャ撮るからたいへん。写真の整理がたいへんなんです。 おもしろい写真がたくさん撮れるといいですね。 ありがとうございます。おもしろい写真はSNSに投稿しています。えっと....こんな感じになってます。 ーーほとんど空だった。空の中に木枠が写っている。木枠を持つ左手も。 空、ですか? 雲です。 なるほど。 同じ雲って、ないでしょ。雲はいつも違うんです。写真から思いつきが広がることも多いんです。だから、写真が好き。

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by  aoki@dwks    2019/08/06(火) 08:10:38

雲の写真を撮っている人。世間の枠と自分の枠を重ねて写真を撮ると言う。楽しそうに語った。意欲が伝わってきた。 わたしは、その勢いに圧された。 思えば、あの御人。 公園を立ち去った、あの御人も。 自分を語るためにわたしを見つけたようなことを言っていた。 ひとしきり、自分を確かめるように語ると公園を立ち去った。 わたしは、ただ聞いていた。 公園を立ち去った御人と雲を撮る人。 二人に互いの接点は無い。 それぞれのふたつの色が、 わたしの中で混ざり合う。 わたしもふたつの色にそれぞれに混じっていく。 公園を立ち去った御人に混ざったわたし。 雲を撮る人に混ざったわたし。 そんなわたしは、わたしの手の届かぬところへ。 それはもう、果たしてわたしなのだろうか。 きっと、誰しもが、世間の枠の中では、「私」の手の届かない「私」が「私」として存在しているのだろう。 「私」のスピンアウト。 「私」の幻想が独り歩きする。 独り歩きする「私の幻想」は現実。 雲を撮る人は、左手の世間の枠の中に自分自身も含まれていることに気付いていたのだろうか。「自分の枠」を重ねながら.... どこへ向かっているのだろう。 真夜中の公園は相変わらずベンチが点滅している。いくつかの灯りが消え、いくつかの灯りが点く。ベンチに座る人、ベンチを立ち去る人。そんな光景が遠く彼方にまで繰り広げられています。わたしのベンチもまた、彼方からは点滅するベンチのひとつとして映るのでしょう。

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by  aoki@dwks    2019/09/14(土) 12:35:32

ドーン! 大きな音が響き渡った。 ドーン!ドーン!と続く。 花火だった。 花火の音は、遠くにも聞こえ、近くにも聞こえる。 花火までの距離が掴めない。 果たしてこの世のものだろうか。 ひゅるひゅると、駆け昇る花火玉。 長く長く、尾を伸ばす。 花火玉、弾けるも音は無し。 短命にして花開く瞬間に、音の知らせが聞こえてくる。 ドーン!ドーン! この世に見る初めての花火。 花火を前に言葉を失う。 言葉にできない衝撃は、永遠の課題。 次の世代へと今ある花火。 ドーン!ドーン! 花火師が命を懸けた技術と仕立て。 記憶の結びつきは奇妙なもの。 幼い頃の夏祭りへと誘う。 小さな街だが、歴史のある街だった。 県境に流れる大きな川。 街を挙げての花火大会。 盆踊りに屋台の賑わい。 川まつりに相応しい万灯流し。 行事の意味も知らぬまま、 灯籠を流すのが面白かった。 遠い記憶に神秘の灯り。 ゆらゆらと、川面を流れる灯籠は、 長い列を成して、大河を照らす。 付かず離れず、抜きつ抜かれつの浮き灯り。 夜空に咲く花火の下で、 今でもあの万灯流しは続いているのだろうか....。 花火の記憶が時を均す。 過去も現在もわたしの中に在る。 きっと未来もわたしの中に在るのだろう。 わたしの中では時計が止まっている。 過去も現在も未来も、今ひとつに在る。 光と音の祭典。 大輪、虚空に舞う。 大輪、虚空に散る。 太陽もまた、花火かもしれない。 真夜中の公園は相変わらずベンチが点滅している。いくつかの灯りが消え、いくつかの灯りが点く。ベンチに座る人、ベンチを立ち去る人。そんな光景が遠く彼方にまで繰り広げられています。わたしのベンチもまた、彼方からは点滅するベンチのひとつとして映るのでしょう。

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by  aoki@dwks    2019/10/02(水) 21:50:49

真夜中の公園は相変わらずベンチが点滅している。いくつかの灯りが消え、いくつかの灯りが点く。ベンチに座る人、ベンチを立ち去る人。そんな光景が遠く彼方にまで繰り広げられています。わたしのベンチもまた、彼方からは点滅するベンチのひとつとして映るのでしょう。 乳母車を引く、老婆。 闇の中から現れた。 ゴロゴロと近づいて来る。 こんな夜中に老婆が散歩? ゴロゴロと音もなく近づいて来る。 老婆はわたしの前で乳母車を止めた。 「もし。気を分けてはくださらんか。」 やぶからぼうだった。 「気を集めておってのぉ。あんたの気を分けてはくださらんか。」 奇妙ではあるが、危害はなさそうだ。 「気?....ですか?」 「そうじゃ。あんたの気じゃよ。」 「分ける....と言っても、わたしにはどうしたものかわかりません。」 「この袋に気を吐くだけじゃ。」 「気?を?....ですか?」 「息を吐くだけじゃよ。それで気が取れる。」 「へ?....気とはそういうものなんですか?」 「わしは、そうやって集めておる。」 老婆はわたしに気袋を差し出した。 なんの仕掛けも無い透明なビニール袋だった。 「わかりました。やってみます。」 わたしは気袋の中へ息を吹き込んだ。 老婆はひょいひょいと気袋の口を輪ゴムで塞いだ。素早い一瞬の動作だった。 「ありがとさんね。」 そう言って、老婆は気袋を乳母車の中に入れた。 「達者でな。」 そう言うと、老婆はゴロゴロと乳母車を押しながら闇の中へと消えて行った。 わたしの、気。 気を集めてどうするのだろう? 聞き忘れた。 わたしは両手で窪みを作って、気を吐いてみた。 掌がかすかに温かい。 これを集めているのか....。 わたしもサンプルのひとつ、ということか。 あのばぁさん、いつから集めているんだろう....。

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